2007年04月20日

レイモンド・チャンドラーの
『ロング・グッドバイ』(村上春樹 訳)を読んで

 レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』(村上春樹 訳)を読んだ。
 1953年に発表された、ハードボイルド小説の古典だ。このほど、村上春樹が新訳版を出したということで、読んでみた。

 村上春樹の文だった。当たり前だけど。もし、「これは村上春樹の小説です」と言われたら、「そうか」と思ったかも、っていうくらい。

 1950年代に、清水俊二が訳したほうの『長いお別れ』と読み比べてみると、ちょっと大げさだけど、まるで違う作品のようだ。
 文の感じが違うし、ところどころ、「もとのテキストが違うのかな?」と思うような箇所すらある。
 村上春樹の「あとがき」によると、清水版では、意図的に、はしょった部分もあるようだ、とのことだった。

■訳者によって、作品のイメージはかなり異なってくるらしい

 訳者によって、雰囲気がぜんぜん違って見える、というのは、これまでも経験したことがある。

 以前、パトリシア・コーンウェルの『検屍官』シリーズが好きで、新作が出るのを待ち構えて読んでいた。
(私が読んだのは、『黒蝿』までだ。好みと少しずれてきたので、読むのをやめた。というか、私の好みが変わったのか。)

 いつも、講談社文庫の相原真理子 訳で読んでいたのだが、ある時、別の人が訳したものを読んだ。日本未訳の短編で、雑誌に掲載されたものだった。
 主人公をはじめとして、シリーズのレギュラー登場人物は、「いつものキャラ」なのだが、なんか違って見えるのだ。どこがどう、と訊かれても答えようがないのだが、違う。なんだか、不思議な感じがした。

 逆のケースもある。別の作家の作品なのに、訳者が同じだったため、両者の作品の雰囲気が似ていると感じたケースだ。

 ジャネット・イヴァノビッチの、『私が愛したリボルバー』を第1作とした、ステファニー・プラム(←主人公の名前)シリーズが私は好きで、毎回、新作を心待ちにして、ずっと読んでいる。扶桑社文庫の、細美遥子 訳のものだ。
 原作がかなり面白いうえに、訳がまた絶妙で、大好きなシリーズのひとつなのだ。

 しかし以前、サラ・ストロマイヤーの『バブルズはご機嫌ななめ』(講談社文庫)を読んで驚いた。
 ステファニー・シリーズと、すごく似てるのだ。
 原作を書いたストロマイヤーが、イヴァノヴィッチに兄事(女性どうしの場合は「姉事」?)しているそうで、「イヴァノヴィッチ風」を意識したということもあるだろう。
 加えて、訳者が細美氏だったため、なおさら、「似てる」と感じたのだと思う。

■なるほど、「古典」だ

 チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の話に戻る。

 私が驚いたのは、主人公の言動や、ストーリー構成が、
「ヴィクやキンジーみたいだ」
と思ったことだ。

 ヴィク(V・I)ウォーショースキーは、サラ・パレツキーの『サマータイム・ブルース』(山本やよい 訳)に始まる、女性探偵シリーズの主人公。
 キンジー・ミルホーンは、スー・グラフトンの『アリバイのA』(嵯峨静江 訳)に始まる、女性探偵シリーズの主人公だ。
 どちらも好きで、私にとっては、生き方の手本(大げさだけど)になった部分もあるような作品群なのだ。

 いや、両方とも1980年代にスタートしたシリーズなので、チャンドラーがぜんぜん先なのだが。

 主人公は、タフで、警察をはじめとした権力を、ものともしない。自分のルール、自分の良心だけに従って行動する。
 独りを好み、群れない。それでいて、人にはいつもフェアで、でもちょっと厳しい。
 悪には敢然と立ち向かう。でも、大げさにではなく、さりげなく。けれども、強い意志を以って。

 ヴィクとキンジーのシリーズだけが影響されたのではなくて、たぶん、チャンドラーのフィリップ・マーロウ(←主人公の名前)シリーズは、その後の「探偵」像と、ハードボイルド小説のあり方を決定づけたのだろう。
 「ハードボイルドの古典」と呼ばれるゆえんだ。

■フィッツジェラルド→チャンドラー→ムラカミ?

 村上はあとがきで、同書を、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』と重ねて見ている。
(私は読んだことがないのでわからない。)

 私はむしろ、「村上作品と重なるなあ」と思う部分があった。
 たとえば、ラスト近くで、主人公が、女性登場人物と、唐突に(と、私には見えた)同衾するところ。しかし、唐突に見えても、実は必然だったりするのだろう。
 村上作品『ノルウェイの森』で、同じようなシーンを見た憶えがある。


posted by 田北知見 at 18:58 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | よいこの読書感想文
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