2007年01月19日

「ミスター円」の講演を聴いて

 トレイダーズ証券トレイダーズホールディングス〈8704・ヘラクレス〉)が、1月15日に、東京・六本木アカデミーヒルズでひらいた、為替セミナー『Mr.円 榊原英資氏が語る 2007年 為替相場見通し』を聴きに行った。

 ちなみになぜ証券会社が為替セミナーをひらくかというと、同社は、外国為替証拠金取引(FX)にもかなり力を入れており、証券事業と並んで、事業の半分くらいを占めているからだ。

■タフ・ネゴシエーター「ミスター円」

 榊原氏は、1941年生まれ。現在は早稲田大学教授を務める。
 1990年代に、大蔵省(当時)の国際金融局長、財務官を歴任。円ドル為替相場への「為替介入政策」で名をはせた。国内外のマスコミや為替ディーラーから「ミスター円」と呼ばれた人物だ。

 私も、20代半ば〜30代の初めごろ、ちょうど1990年代に読んでいた『ニューズウィーク日本版』で、時々、その名を見かけていた。
 記憶によると、それらの記事の雰囲気からは、榊原氏に対する敬愛が匂っていた気がする。

 今回のセミナーの質疑で、「大蔵省時代の為替介入について」質問が出た。
 榊原氏の答えは、要旨、次のようなものだった。

「米ドル・円の介入の場合、アメリカ側の了承が一番重要だ。国内では、大蔵大臣に、幅とおおまかな時期について了承を取り、あとはある程度、任せてもらった。総理には、もっとおおまかな了承をもらっていた。
 次に重要なのは、マーケットの流れを変えること。サプライズだ。多くの投資家等が予測しているのと逆のことをやると良い。タイミングなどもあり、やみくもに逆をやってもダメなのだが。心理戦争だ」

 その答えから、私は、
「きっと、アメリカ側からは、『サムライのようなタフ・ネゴシエーター』で、『ニンジャのようなトリッキーな施策を繰り出す』と言われていたのではないか。それで、アメリカ側からも尊敬を勝ち得ていたのではないか」
などと、勝手に想像したりした。

■米ドルからユーロへ

 もうひとつ、印象に残ったのは、「最近、なぜこんなにユーロが高いのか?」という疑問への答えが出たことだ。
 最近、ユーロが高い。たとえばきょうの夕方6時ごろで、1ユーロ157円台だ。

 ユーロ高の理由はふたつあって、ひとつは、キャリートレードによる、日本からの資金流出と、円売り・ユーロ買い、が加速していること。
 もうひとつは、世界経済のなかで、ドルに続く、第2の機軸通貨になりつつあること。

 年末年始にヨルダン、シリアへ旅行に行った時のことだ。
 私はいつも、途上国への旅行には、米ドルを持って行く。現地通貨や円よりも、使いやすいことが多いからだ。
 でもシリアの、あるお店で、「これはいくらですか?」と訊いたら、「10ユーロ」という答えが返ってきて、驚いた。東南アジアやエジプトでも、ドルで値段を言われたことはあるが、いきなりユーロで言われたことはなかったので。
 もちろん、現在のシリアとアメリカの政治的関係があまり穏当ではないこと、地理的にヨーロッパに近いこと、などはある。
 それを勘案したとしても、やはり、ちょっと大げさだが、「ドルからユーロへ」という、機軸通貨の変化の流れを肌で感じた気がした。

■講演で印象に残った点

 この他、榊原氏の講演で印象に残った点は、以下のとおり。(私が外国為替についてシロートなので、間違って聴いた箇所もあるかもしれない。その場合はあしからず)

● 今後の「円安」について

 日本は現在の低金利水準が続くと思われ、また、アメリカ経済の力強さ、欧州中央銀行の金利上げから考えると、今後さらに円安へ振れるのではないか。
 ただし、G7の「政治的圧力」の有無が日本の金利・為替に影響する可能性はある。
 アメリカからはとくに不満が出ていないが、欧州はすでに現在の円安に(フェアではないという)不満があるようだ。
 ただ、アメリカも、私の経験上、1ドル120円ラインで警戒感、125円ラインを超えると円安懸念が出て、ドル売り対応を始めていた。
 現在も同様だろう。もちろん、マーケットが基本だが、介入の可能性もある。介入した場合、10円程度、円高に振れると見ている。

● これまでと今後の為替相場

 この1〜2年、為替相場は金利相場で、もちろんマーケットがベースなのだが、日銀など中央銀行の動向がかなり影響していた。
 翻って、今年は、政治相場になるかもしれない。たとえば、今夏の参院選で自民党が惨敗すれば安倍政権が倒れる可能性がある。そうなると、為替や金利に影響を及ぼす。ただし、政治相場はかなり読みにくい。

● 中国について

 しばらくは9〜10%の経済成長を続けるだろう。とくに2008年の北京五輪までは、メンツをかけて政治、経済とも安定を図ると思われる。金利上げ、汚職摘発などの締め付けも強めている。5〜6年のタームでは、経済成長はゆるやかに減速していくだろう。

 中国の政治はトップ人事も含め、5年おき。次の期は温体制が持続する。その、次期の間に後継者が決まる。そのため、今年〜来年は経済を減速するわけにはいかない。

 中国共産党は、日本の自民党だという冗談もある。中国共産党の人は、「日本の自民党が目標だ」という人もいる(笑)。

 今、元と香港ドルが同じ水準になり、今後は元高がゆるやかに進むだろう。
 その間に、金融制度の自由化へ向かう。外国の金融機関が中国国内で商売をしたがっている。
 たとえば、昨年、ゴールドマンサックスが平均ボーナス7800万円等と報道されたが、その儲けのほとんどは中国で儲けたものだ。米中関係は実はかなり良い。それを安倍首相らはわかっているのだろうか。一部のマスコミでは中国たたきを盛んにしているが…。

 いわゆる第5、第6世代は内陸部の書記長から多く出るのではないか。中央トップは格差問題にかなり配慮している。

● アジア通貨と、ユーロ、ドル

 その他のアジアの通貨は、緩やかに高くなるだろう。個別事情はあるが、アジア経済は全般にしばらくは強い。世界経済の重心がアジアに移行しており、相対的には強くなる。10〜20年のタームでは、ポートフォリオにアジア通貨を入れると良さそうだ。

 インドは、今後もしばらく、2015年ごろまで9〜10%成長が続くだろう。
 中国との成長率は逆転するだろう。というのは、中国は一人っ子政策だが、インドは人口増加率が高い。若年層が多いという強みがある。中長期にポテンシャルがある。インドルピーは切り上げていくだろう。

 逆に、ドルは相対的に存在感を弱めるだろう。

 ユーロは第2の国際基軸通貨になり始めている。ドルの代わりにユーロを保有、という動きも出始めている。

 この5年くらいで世界経済は変わるのではないか。アメリカは相対的に弱く、中・印・アジアが相対的に強くなりそうだ。

● 今年の見通し

 私が大蔵省に在籍していた時代、とくに1980年代後半〜1990年代は、1985年のプラザ合意時239円から、1995年の1ドル78円、1998年の148円と、ボラティリティが大きかった。トレーダーのビジネスには良かった時だ(笑)。

 この5年ほどは、マーケットが平穏で、ボラティリティが少なかった。今年あたり、世界的にボラターになる可能性がある。株式も景気も企業収益も良い。日本経済は今年ピークかもしれない。米・中はすでにピークを迎えた。

 2007年は為替マーケットで、今後5〜10年の変化を先取りした動きが出てくるかもしれない。予測はしがたいが。世界経済の構造変化から、過去の罫線から予測するのは難しくなっている。
 この2年くらい、トレーダーやディーラーにとっては大変おもしろい時期になりそうだ。小刻みに売買して、儲けるチャンスもありそうだ。


posted by 田北知見 at 18:31 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | あの業界!こう見る
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